チェスのタクティクスの鍛え方


「チェスで1番大事なスキルは?」と聞かれたらなんて答えますか?

私はタクティクスだと思います。

今回は

  • なぜ大事なのか
  • レート帯によってどう鍛えるべきか
  • あなたはどう鍛えるべきか

について書いたので、参考になるヒントがあればと思います。


タクティクスとは

明確な利益が達成できる具体的な手順」。

チェスの試合でそういう手順を見つけ、指せるようにしたい。

チェスの目的であるチェックメイトもタクティクスの一種。

  • 相手の駒を複数攻撃するフォーク
  • 相手の駒を動けなくするピンを使って駒得する

というのはタクティクスの代表的な例ですね。

タクティクスにも色々な目的があって、駒得だけじゃなく、有利な局面を築いたり勝ちのエンドゲームに入るなどもあります。


なぜ大事?

駒得や他の形で有利となれば、そのリードを使って最終的に相手をチェックメイトできます。

アマチュア帯では大体の試合がタクティクスで決まります。どのレベルでも相手よりタクティクスを多く、速く見つける能力を持っていればそれだけ勝つチャンスが上がります

レベルが高くなっていくにつれてお互いタクティクスをそう簡単に相手に許さなくなって、タクティクスを狙う、攻撃を狙う以外のスキルも重要になっていきます。

しかし、タクティクスの能力自体はサッカーでいうボールを蹴る、テニスでいうボールを打つ、1番大事な能力なので日常的に鍛えるのは不可欠と言えます。

Xで行った投票でも、一般的にタクティクスがいかに大事と思われているかが分かります。

これはもちろん主観で、正解もないんですけど、私も75%辺りかなと思っています。

さて、「タクティクス」と言うと「パターン認識」と「読み」、両方の意味で使っている人も多いんですが、この2つの違いを知っているとでかい。


パターン認識

パターン認識の方は文字通り、認識できるパターンを増やす

  • 考えなくてもタクティクスの決まる手が分かる
  • この手がいいんじゃないかと直感で感じられる。

ノーベル賞を受賞した心理学者・行動経済学者のダニエル・カーネマンは、我々の脳が2つのシステムを使い分けていると提唱しました。

システム1では、速い思考が自動的、直感的、無意識のうちに行われます。チェスのパターン認識はこちらですね。

局面が見えた瞬間、チェックメイトの手が見える。典型的なチェックメイトの形だったり串刺しのタクティクスをたくさん解けば、そのパターンが脳の中で自動化されて速く見つけられるようになります。

パターン認識の向上には量をこなすということが大事なので、何百・何千と問題を解いて極めていけば、以前は考えても分からなかったようなタクティクスがすぐに見えるようになったりします。


読み

読みの方が手順を頭の中で計算する・決断するプロセス。

こちらがダニエル・カーネマンのシステム2、ゆっくりな思考。こちらは集中して、意識的に、時間をかけて考える必要があります。

あなたが指す手にはどういう選択肢があるかだったり、1つの手に対して相手の手は何か、それに対してまたこちらの手は何かと手順や枝道を計算したり、 その結果を評価し、次に指す手を決める過程と言えます。

読みを鍛えるには

  • すぐには解けない
  • 計算しないといけない
  • 時間をかけて考えないといけない

問題を解くのがおすすめとなります。


「パターン認識」と「読み」

我々が生活の中で直感的思考と論理的思考を使い分けているように、チェスのタクティクスでもパターン認識と読みを使い分けています。この2つは密接な関係を持っていて、問題を解いている時も試合でも、合わせて使っていることが多い。

パターンを知っていればいるほど何から読むべきか分かりやすいし、読みの能力が高ければ高いほどパターンをうまく計算・比較して強い手が選べます。

このメールでは便宜上、この2つを自立しているスキルとして扱います。

まとめると、パターン認識が解決法を知っているパターンや解決の対象となるパターンを増やす。そして、読みが解決するための手順を考える、解決できるかどうか計算するプロセスと覚えておきましょう。


あなたはどちらを鍛えるべき?

あなたにとって1番大事なのが、もちろんタクティクスで何を鍛えるべきか。それを知るためには、まずあなたのチェスを診断する必要があります。2つの角度から考えてみましょう。


レート帯に合った鍛え方

オンラインレート1500辺りまではとにかくパターン認識の方に集中するといいと思います。オンラインレートは、ここではOTBのレートより一般的に高いものとして扱うので適当に変換してください。

例えばレート500ぐらいまでは

  • ただで取れる駒を見つけられる
  • 駒をただで取られないようにする

というのがかなり大事な部分。

レート1000辺りまではそれに加えて、

  • 1手のタクティクスを見つけられるようにする

なども入ってきます。

レート1500まではさらに

  • 1手以上かかるタクティクスを実戦でもっと見つけられるようにする
  • 1手のミスを減らす

などですね。

ここまでは、パターン認識の能力が高ければ高いほど実戦でもそれが実感できるかと思います。

レート1500から2000までは

  • さらにタクティクスの精度を上げていく
  • 時間が少ない状態でも1手のタクティクスを見つけられるようにする
  • 読み抜けを減らしていく

など、この辺からパターン認識を相変わらずやりつつ、読みのトレーニングも入れ始めるといいと思います。

タクティクスを見つけられるだけでなく、読みで相手の上を行くことで勝てることが出始めることが多くなると思います。

レート2000からはそこまでのものに加え

  • 複数の手数がかかるタクティクスを読んでいく
  • 相手のタクティクスも読んでうまく対処していく

だったり、やっぱり読みをこなせることが大事となっていきます。

この辺りからはパターン認識よりも読みの方に力を入れて鍛えましょう。

レート2500以上だとパターン認識はもうかなり高いレベルまで行っているはずなので、パターン認識も定期的にだったり、実戦や読みのトレーニングの前の肩慣らしとしてやるのもいいですが、読みの方のトレーニングに特化していくのが大事だと思います。


あなたに合った鍛え方

レート帯ごとの特徴だったり、鍛えるべきものの目安はもちろん大体のもので、個人差があります。レートよりも具体的な判断材料となるのがあなたのチェスの試合。いくつかのパターンを見てみましょう。

例えば

  1. タクティクスをもっと見つけられるようにパターン認識を増やしたい、改善したい
  2. タクティクスをより速く見つけられるようにしたい
  3. 読みを改善したい、その中でも手の広さだったり深さだったり、精度、どれを伸ばしたいかなどの違いもあります。

あなたに当てはまるのがどれか知るには、指した試合を振り返りましょう。そこで、自分のタクティクスも相手のタクティクスも見落としがちだったら例えば①のタクティクスをもっと見つけられるようにパターン認識を増やす、というのがいいかもしれません。

この場合、オンラインで数分以内に解けるようなタクティクスの問題をたくさん解いていくというのもいいでしょう。そして例えばパターン認識は自信あるけど相手の手がうまく読めないだったり、3手先となると全然読めないとかなると、③の読みの問題の方に時間をかける。本から問題を見つけて、1問に10分はかけるような問題で鍛えていくなどと考えられます。

そして、この材料やデータとなるあなたの試合は持ち時間が長いほど、試合数が多いほどいいと言えます。OTBの公式戦を指すプレイヤーだったら、例えば直近1年で指した公式戦をタクティクスの面から検証してみてうまくいってる部分や課題を見つけようとできます。あなた側から仕掛けるタクティクスの精度には満足だけど、相手のタクティクスを見逃しがちかもしれません。

オンラインプレイヤーの場合は、ラピッドやブリッツの比率がクラシカルより多いと思います。それらの試合を振り返る中で課題を見つけるといいでしょう。

例えばラピッドだと終盤でよくブランダーしてしまう、ブリッツだと中盤でいつも読み抜けがあると分かるかもしれません。それが分かったら、そのフェーズだったり課題に特化したタクティクスをたくさん解いていくと改善しやすいと思います。

ブリッツで例えば毎試合ブランダーしてしまうんだったら、それはもう少し正確に指せる、時間のあるラピッドの試合の比率を上げたり、早指しはもう少しタクティクスの精度を上げてからやろうと考えることもできます。


どう鍛える?

鍛えたいのがパターン認識でも読みでも、現代では良いプラットフォームや本がたくさんあります。

オンラインではやはり全機能無料のリチェスがおすすめ。

  • テーマ別(あらゆるパターンから特定の序盤、終盤での問題など)
  • パズルストーム(時間内になるべく多くの問題を速く解く)
  • パズルストリーク(時間制限なしで難易度の上がる問題を解く)

だけでも、パターン認識・読みを鍛えられます。

チェスコムでも同じように、

  • パズル
  • パズルラッシュ
  • パズルラッシュサバイバルがあります。

チェステンポ(ChessTempo)も問題を解くのに特化した良いサイトですし、本や問題集は昔から良いものがあります。

オンラインでやりたい方は、チェサブルなどにもタクティクス(Tactics)や読み(Calculation)のコースを検索して、合う難易度・レベルのものが見つけられる時代となりました。


実戦で使えてこそのスキル

もちろん、問題を解くだけでなく実戦、その振り返りやチェスの勉強、棋譜並べからも新しいパターンを学べます。ですので問題を解くだけより、いろんなとこからパターンを吸収するといいと思います。

タクティクスの問題を解くことがうまくなるより、実戦でのタクティクスをうまくなるという方がはるかに大事で目的であるべきだと思うので、実戦も常にこなしましょう。

パターン認識の方は比較的早く解ける、自分の解ける能力内の問題をとにかくまずは数をこなしていきましょう。読みの方でももちろん量は大事なんですけど、こちらはパターン認識と比べると1問に対してもう少し時間をかけて取り組むべきだと思うので、量より質という感触。これは読みの問題の方が基本的に難しいので速く解くというのが目的ではなく、読む能力自体を鍛える方が大事だと思います。

私は画面上で読みの問題を解くというのは、あまり好きではありません。時間をかけたいところで、PCとかスマホとかを見ながらじっくり考えるというのに慣れてなくて、感覚的に合わない。なので読みの方では、このシステム2のゆっくりの思考をたっぷり使える、本をおすすめします。しかし、特に10代~20代の方だと画面上でも読みの問題をやるってのは慣れてるかもしれないと思うので、あなたに合うと思うやり方で取り組んでください。

実際のチェス盤も使って、そこに本からの局面を並べて考えるというのもOTBの環境らしくてメリットもあると思います。また、読みの問題で私が大事だと思うのは、答えを実際、紙に書き出すこと。これは1手目だけじゃなく、枝道だったり、自分が重要と思うメインラインだったりを書いていって、そうすると回答を見た時に「これも読めてたな」と自分を誤魔化すこともできないので大事になります。

本筋で逃している手や変化があったら完全な正解とみなさないだったり、そこは厳しくするといいでしょう。例えば局面を何分か眺めて、「この手かな、 これでいいや」と頭の中で決めて、答え合わせした時にその初手が合ってたとしても、他の部分が読めてなかったらちゃんとしたトレーニングになってないと思んですよね。試合とみなしてシミュレーションしましょう。

読みのトレーニングでは「頑張れば解ける」というレベルの問題をやっていきたい。パターン認識よりはやはり、難易度がもう少し上がる。簡単すぎても難しすぎても面白くないですし、上達につながりにくいので、目安としては7割ほど解ける、というレベルの問題を読みでやっていくといいと思います。

例えば、私が解いた読みの本ではこういうものもあります。

パターン認識のトレーニングにももちろんなります。しかし、比較的短い時間で解けるパターン認識の問題と比べるとこちらの方が難しく、メンタル的にも辛いというか試されます。しかし、レベルが上がるにつれて読みを鍛えるのはやはり大事となっていきます

タクティクスの中であなたは何を鍛えるべきと思うか、方向性はすでにあるかもしれませんが、パターン認識でも読みでも量だけでなく質、そしてあなたのチェスに見合ったレベルのものを解いていくのが大事と覚えておきましょう。

チェスを長くやっていく中では、さらに

  • 日常的に無理なくトレーニングや勉強に取り組める環境やシステムを作る
  • タクティクスのトレーニングについても話せる、切磋琢磨できる仲間やコーチがいる
  • あなたのチェス全体とタクティクスがどうつながっているか意識できている

と力になると思います。

日常的に実戦をこなす他に時間やモチベがある人はなるべく毎日、毎日が無理なら週に何日か、タクティクスの問題を解いていくといいと思います。

とにかく、コツコツと積み上げる行動に勝るものはありません


今回のメールは以前投稿した動画をベースに作りました。動画ではリチェスのパズルなどをもう少し詳しく扱ったので興味ある方はこちらからどうぞ。

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