こんにちは!
今回のテーマは「持ち時間の長い試合を指そう」です。
「勝ってるのに、時間がないせいでミスをするのが悔しい...」
こんな経験はありませんか?
普段、早指しばかりやっている方は特に要チェックです。
メルマガ1通目、「本気度の試合を指そう」ともつながりがあります。
チェスの上達を目指しているのなら、持ち時間の長い試合を指すのは大事です。
そういう試合ほど
- じっくり考えられる分、試合の質が高い
- 局面によってどれだけ時間を使うかというスキルも磨ける
- 中盤や終盤でも考える時間があるので全フェーズの経験値を着実に積める
- 序盤から1手1手集中して考えて指すので、1人で研究するより遥かに理解を深めやすい
など、利点が多いです。
チェス上達の本質
あなたのチェスのレベルがどんなものでも、優先したいのは手の「質」を上げることです。どんな局面でも、以前より強い手を指せるようになったらチェスが成長していると言えるでしょう。
チェスをやっていく中で、この本質を意外と忘れがちです。
チェスで強くなるために特に大事なのは、実戦の面だと質の高い手をできるだけ多く指せる試合。
つまり、
試合(質)をなるべく多く指すこと(量)です(質×量)(勉強や練習の面でも、同じように「質x量」を意識しましょう)。
チェスの強豪国はこの環境が整っているので、新たな強いプレイヤーも輩出しやすいです。競技人数自体多いことももちろん大きいですが、子どもの頃から多くのプレイヤーが本気度の高く、持ち時間の長い試合を指せる環境があります。
チェスクラブに足を運んで行うOTB(対面)の練習試合や学校対抗戦でのラピッドを始め、公式戦で行うOTBクラシカル(1時間や1時間半などの持ち時間の長い試合)がこの最たる例でしょう。
私の経験
私はオーストラリアの首都、キャンベラで生まれ育ち、今も住んでいます。このような公式戦を毎週指せるクラブが私の場合、家から車で10分~15分圏内に2つもある、恵まれた環境にいました。小~中学校の間の何年かは毎週、水曜と金曜の夜に(時には数時間以上にわたる)チェスをしていました。
最初から強かったわけではありません。初めての大会では土曜日の朝に通っていた日本人補習授業校の同級生に負けましたし、チェスを始めてから3年ほど経っても、国内レートは600程度でした。その成長速度を見ると、あなたも才能のない方だと思うんじゃないでしょうか。
しかしチェスがとにかく好きで、両親のおかげで多くの大会に参加できました。チェスを始めて5年目辺りから成長が加速し、年齢別では国内でもトップレベルのプレイヤーになりました。
2007年、シンガポールでの世界ユースU/16オリンピアードにて(私は左から2人目)。右端のコーチはGM イアン・ロジャーズ。私の右のチームメイトは3人とものちにGM達成! |
チェスの大会に初めて参加してから22歳の時にIMタイトルを獲得するまでは15年近くかかりましたが、その間、行った公式戦の数は1,000試合以上です。
1番のトレーニング法
「公式戦、持ち時間の長い試合で結果を出せるようにトレーニングを頑張る」と思われがちですが、これは少しズレていると思います。
持ち時間の長い試合こそが、何よりも深く、チェスを伸ばしてくれる学びが得られる、1番のトレーニングの場なんです。
結果を出すことではなく、チェスを強くなることが目的にできて、それを常に意識できていると強いです。
チェスが強くなれば、結果はいずれついてきます。
持ち時間の長い試合で伸ばせるもの
持ち時間の多い試合を頻繁に指しているとチェスのあらゆる能力が鍛えられます。
- 読み
- 戦略
- 勝負勘
- 局面の理解
- 局面の評価
- 直感とより深い考えのバランス...。
早指しだと「盤上で勝つ」だけでなく「時間で勝つ」という要素も大きくなるので、持ち時間の長い試合とは本質的に違います。
ラピッドやクラシカルだと例えば、
- 駒得すればそれを勝ちにつなげられる
- 相手が無茶な攻めをして来てもそれを咎められる
よう、考えて指せる時間がより多く残っています。
要は持ち時間が多いほど、時計より局面が大事という世界。総合的なスキルが伸びれば以前より局面の核心が突けるようになり、より強い手を見つけるスキルが備わるようになります。
おすすめのアプローチ
そのため、まずはラピッド以上の試合をなるべく多く指し、質を上げるのがおすすめです。1手のブランダーや読み抜けがまだ多いうちにブリッツやブレットをやっても、そういったミスで試合が毎回傾いてしまいます。すると、タクティクス以上の深い学びは得られにくいので、タイムレンジが短すぎるかもしれません。
そういう場合はラピッド以上の試合を指すことで質を上げたり、タクティクスや読みの能力を上げる方が大事だと思います。もちろん、ただチェスを楽しみたい、早指しを楽しみたいというのは自由ですし、日頃のチェスで楽しめる部分があるのは大事です。
ただ、上達を狙っているのなら、優先順位は意識しておきましょう(早指しについては他のメールでまた詳しく扱います)。
チェスを始めたての方にも、ラピッドはおすすめです。
クラシカル、例えば持ち時間が1時間もある試合はどうでしょう?
考える時間が十分あっても、それほど長く集中するのも慣れていないと難しいですし、相手が10分も考えていたら初心者の方はそもそも飽きてしまうかもしれません。ラピッドだと考える時間はありつつ、試合が長すぎないので始めるには丁度良いかと思います。
まずは加算(1手指すごとに一定の持ち時間が足される)ありの、例えば15分+加算10秒などの長い持ち時間の試合がおすすめです。10分切れ負け(加算なし)などは長いようで短いです。試合の後半で数分しかなくなると、もはやブリッツの試合となります。
持ち時間が長ければ、そして加算が少しでもあれば、
- 勝っている局面でブリッツやブレットのように時間が落ちて負けを食らうことも減ります
- そして、負けている時もただ時間で勝とうとするのではなく、ベストを尽くし、強い手を指し続けようとすることで逆転を狙えます。
2001年8月の公式戦、私 (国内レート613) - D. Stojic (1572)。私はここで8.Nxe4??と指し、8...dxe4でフォークからピースダウン。しかし粘って最終的に引き分けられ、これがよっぽど嬉しかったのか、これがチェス人生でパソコンに打ち込んだ棋譜第1号です。 |
チェスの上達の助けとなる総合的なスキルはクラシカルだけではなく、ラピッドでも鍛えられると私は経験から感じます(1番はやはりクラシカルですが)。そのため、OTBでもオンラインでも、始めるのはラピッドがおすすめです。
OTBプレイヤーならクラブでの練習試合を試してみて、準備OKと感じたら大会などでのクラシカルに挑んでみる。オンラインならまずはラピッドの質を上げる。ブリッツやブレットはラピッドやタクティクス・読みの練習を通して、駒のただ落ちが少なくなったらなどというタイミングで指してみるのが良いかと思います(そして、トレーニングの中の早指しの比率は多すぎないように)。
タイムレンジの関係性
クラシカルやラピッドでチェスのレベルを上げてからだと早指しもさらに楽しめると思います。持ち時間の長い試合ではチェスの総合的なスキルを伸ばせるので、これはより短いタイムレンジのチェスにも良い影響があります。
早指しで鍛えられる、指す中で「効果的」と学習する指し方は
- とにかく短期目線
- すぐに見返りを求める
- 大局観よりも主導権=どちらがより速く狙いを作れるか重視
という偏ったものになります。
これに慣れてしまうと、
- プランを練らない
- ポーンの形などの要素は気にしない
- お互いの戦略を考えずに手を決める
のに慣れてしまいます。すると、持ち時間の長い試合でも、染み付いたその同じ考え方を意識せずにも使ってしまいます。
持ち時間の長いチェスの方を主な戦場にすると、より大局的な考えや1手先の狙いよりも深い要素を考えるようになります。すると、時間が少ない状態でもこういった要素にも注意するようになっているので、やはり持ち時間が多い方にフォーカスする道を私は推します。
チェスの世界において、持ち時間の長い試合ほど深い集中という、チェスでも人生でも不可欠なスキルを伸ばしてくれて、かつ没入感が感じられる場はありません。じっくりと64マスの宇宙に潜る中で、局面の深淵をのぞくと、無限にも感じられる手順、アイディアやモチーフがこちらをのぞき返してきます。
チェスの試合中、局面以外のものは意識から消え去るフロー状態。
これは生活の中では他にはなかなか味わえない、至高の瞬間です。
あなたは普段のチェスで、「持ち時間の長い試合」を指していますか?
メルマガで扱ってほしいテーマやチェスの質問、悩みがあったら気軽にこのメールへの返信で書いてください。将来のテーマの候補としても参考にさせていただきます。
それでは、次回のメルマガで!
じゅんた
113 Cherry St #92768, Seattle, WA 98104-2205
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