チェスが伸びない。
パズルは解いてるし、定跡も覚えてる。
それなのに、なぜかいつも同じ負け方をしてしまう。
その感覚、すごく分かります。私も長い間、同じところでつまずいていました。
私は公式戦を1,000局以上指して、インターナショナルマスターになりました。
それでも、振り返ると「頑張る方向がズレていた」時期があって、何年も遠回りしてしまったと思っています。
このメールでは、チェス歴25年の中で本当に効いたことだけを「25の学び」としてまとめました。
無駄な失点を減らして、上達に直結することに集中して、もう一度チェスを楽しめる状態に戻していきましょう。
教訓1:引き分けで逃げない
私は公式戦で400局以上負けています。
でも、その負け自体を後悔したことはありません。
後悔しているのはたった2局。
「勝てるチャンスがあったのに、引き分けで手を打ってしまった」対局です。
1局は、元スーパーGMが相手でした。
引き分けでIMタイトルが決まったんですが、あの一局だけは、何年経っても心に残りました。
あの瞬間の私は、成長よりも安全を選んでしまったんだと思います。
だからこそ、勝てる可能性があるなら勝ちにいってください。
勝ち切れなくて負けたとしても、その経験は必ず残ります。引き分けの握手より、ずっと価値があります。
教訓2:自分だけの「学びノート」を作る
「これいいな」と思ったアイデア。
あとで見返したい名局。
心に残った言葉。
そういうものって、その場では覚えているつもりでも、メモしないと驚くほど消えていきます。
だから、保存先をひとつに決めてください。
Lichessの研究でも、Googleドキュメントでも大丈夫です。
そして毎日ひとつだけ、そこに残す。
さらに一行だけでいいので、「なぜそれが大事か」も書く。
それだけで、1か月後には30個の学びが残ります。
1年後には、自分で選び抜いたライブラリができて、復習にも指導にも使える“資産”になります。
教訓3:悪い局面を楽しめ
多くの人は形勢が悪くなると焦ってしまって、心のどこかで先に投了してしまいます。
でも、そこからが勝負です。
私はジュニアの頃は序盤が大嫌いでした。
GMのDavid Smerdonに「オーストラリアで一番弱い定跡で知られていた」と本に書かれたことがあるくらいです。
だから、出だしから苦しい展開になることが本当に多かった。
ただ、そのおかげで身についたものもあります。
しぶとく受け続ける力。ほんの小さな反撃のチャンスを探し続ける力。
そして実際に、完全に負けているような局面から何人ものGMに勝ったこともあります。
次に形勢が悪くなったら、こう考えてください。
「ここからはミニゲームだ」と。
テーマはひとつだけ。相手にとって、とにかくやりにくい局面にすること。
そうやって負け試合を少しずつ拾えるようになると、あなたは他のプレイヤーにとって“戦いたくない相手”になっていきます。
教訓4:定跡よりタクティクス
チェスは容赦がありません。
序盤がうまくいっていても、たった一発で全部ひっくり返ります。
テニスに例えるなら、ボールをちゃんと当てられないのに、戦略だけ立派でも勝てないのと同じです。
それなのに、単純な一手の見落としが多いまま、先に定跡コースに手を出してしまう人が本当に多い。
優先順位ははっきりしています。
まずはタクティクスです。
本でもオンラインでもいいので、まずは数百問。次に数千問。
同じレベルの相手より「タクティクスが見える」だけじゃなく「見えるのが速い」状態になると、上達のスピードは一気に上がります。
その結果、序盤も中盤も終盤も、全部が少しずつ楽になっていきます。
教訓5:負けたら「ひとつ」だけ持ち帰る
負けるのは痛い。
でも、負けほど正直な鏡はありません。
それなのに多くの人は、その鏡をまともに見ようとしません。
運が悪かった、相手がどうこう、環境がどうこう…理由はいくらでも作れます。
私自身も、20年も「持ち時間が足りなかった」を言い訳にしていました。
だからルールを一つだけ決めてください。
真剣勝負のあとには、必ず振り返って「学びをひとつだけ」書く。
オンライン中心なら、週に一回まとめて軽く見返すだけでも十分です。
そこで「いつも同じ形でやられているパターン」を見つけてください。
そして次の一週間は、それに集中して直す。
負けから毎回ひとつ学べる人は、時間が経つほど負けが減っていきます。
教訓6:クラシックを学べ
新しいコースや新しいツールは、いつも「効率化」や「進化」をうたいます。
もちろんそれ自体は悪くありません。
でも、チェスの本質的な地図は、ずっと前に描かれています。
カパブランカの自然さ。タリの魔法。ペトロシアンの慎重さ。
彼らの棋譜を追うだけで、チェスがどれだけ広く深いかがよく分かります。
古い名局は、アイデアがはっきりしていて学びやすいんです。
私自身、子どもの頃は名局集をボロボロになるまで読み返していました。
それが、チェスはただのゲームじゃなくて、歴史とつながった“世界”なんだと感じさせてくれた。
50年前、100年前の棋譜でも、今のあなたのチェスを変えられます。
何に憧れるか、どんなスタイルを目指したいか。そういう軸を作ってくれるのがクラシックです。
教訓7:仲間を見つけろ
友達が練習仲間だったり、ライバルだったりすると、不思議と続きます。
一人だとサボれることも、誰かがいると自然と向き合える。
私もジュニア時代は運がよくて、大会で会って、一緒に練習して、海外遠征まで行くような仲間がいました。
あの環境がなかったら、ここまで続いていなかったと思います。
逆に、ずっと一人で練習していたり、周りに同じ熱量の人がいないと、どうしてもモチベーションは落ちやすいです。
大事なのは「自分を引き上げてくれる環境」に身を置くこと。
それだけで基準が上がって、同じ1時間でも練習の質が勝手に上がっていきます。
教訓8:強い相手を探せ
身近なコミュニティで自分が一番強いと、気持ちはいいです。
でもその状態が続くと、いつの間にか“飢え”が消えて、成長が止まりやすくなります。
私にとっては世界ユースU12が衝撃でした。
同い年の選手たちが、まるで別の世界にいるくらい先を走っていた。
そこで初めて「もっとやらないと」と本気で思えて、数か月ものすごく集中して努力できました。
もし本気で伸びたいなら、強い相手が集まる大きな大会を優先してください。
彼らはただあなたをへこませる存在じゃありません。
自分に足りないものと、同時に「ここまでいけるんだ」という可能性の両方を見せてくれます。
教訓9:自分の手を動かせ
私は10代と20代で、かなり遠回りをしました。
本当に学びたいものがないのに大学に通い始め、、チェスにも本気で振り切れなかった。
理由はシンプルで、挑戦して失敗するのが怖かったからです。
だからこそ言えます。
大会と大会の間は、やることをブレさせないでください。
柱はこの4つで十分です。指す、振り返る、解く、学ぶ。
もし時間管理が苦手なら、ここで一度だけ自分に聞いてみてください。
「私は何を避けている? それはなぜ?」
やりたいのに先延ばししていることがあるなら、今日、ほんの少しでも手をつけてください。
他人の棋譜を眺めながら、自分の一手をずっと先送りにするほど、人生は長くありません。
大事だと思えることに時間を使いましょう。
教訓10:しんどい方をやれ
SNSで流れてくるパズルを解くと、「練習した気」になります。
私も10代の頃は、毎晩1分チェスを指して「これがトレーニングだ」と自分に言い聞かせていました。
でも今振り返ると、あの時間の多くは、自分の対局を分析したり、読みを鍛えたりすることに使うべきでした。
結局、そういう“しんどい練習”を何年も避けていたんです。
だから、やる気があるときほど意識してほしい。
深く集中が必要な、難しいことに時間とエネルギーを使ってください。
数分でもいいので、フル集中が必要な練習を継続できるだけで、あなたはすでに多くの人より一歩先にいます。
教訓11:広くより深く
チェスはやることが多すぎます。
タクティクス、序盤、中盤、終盤。全部大事。
でも全部を同時に伸ばそうとすると、結局どれも伸びにくい。
だから、毎月テーマを決めて深掘りしてください。
弱点を潰す月でもいい。得意を伸ばす月でもいい。純粋に気になるテーマでもいい。全部アリです。
ルーティンがあるのは強い。
でも時々、新しいことに触れるのも大事です。好奇心が残ると、学びが続きます。
教訓12:レートより「進歩」を追え
レートは上がったり下がったりします。
数字だけを追っていると、昨日は最高で今日は最悪…みたいになりがちです。
そもそも成長って、一直線には進みません。
だからおすすめしたいのが、結果とは別に「内容面での目標」を持つことです。
結果が出ない時期でも、前に進んでいる感覚を保てます。
たとえば私は時間の使い方が課題なので、今年のある大会では
「40手指した時点で10分残す」ことを目標にしました。
チェスは二人ゲームなので、結果を完全にコントロールすることはできません。
でも内容面での目標なら、自分の行動はコントロールできます。
そこに意識を置くと、ブレずに続けられます。
教訓13:言うな、やれ
今の時代、他人と比べずにいるのは難しいです。
勝ちは見せて、負けは隠す。どうしてもそうなりやすい。
私も長いあいだ、自意識過剰な人間でした。
25年やって分かったのは、結局これです。
誰も見ていないところでやること。自分との約束を守ること。
そしてもう一つ。
「やるよ」と口にすると、脳が“もう半分終わった”みたいに錯覚します。
だから、言うのを減らして、やる量を増やしましょう。
教訓14:才能だけじゃ足りない
伸びるのが速い人はいます。才能があるのは素晴らしいことです。
でも、努力なしでスルスル伸びてきた人ほど、壁にぶつかった瞬間に苦しくなります。
そこでギアチェンジができないからです。
私はこれまで、何百人もの選手を間近で見てきました。
「才能」は思っている以上の割合で「努力」に追い抜かれます。
チェスは短距離走じゃなくマラソンです。才能に努力が伴わないと、あとで後悔に変わります。
だからこそ、才能を「結果」に変えるのは、派手じゃない習慣です。
退屈でも、繰り返せること。たとえば運動をする、弱点に向き合う、進捗を見てくれる相棒を作る。
大きく始めなくていい。小さくで十分です。
もし今「私は努力しなくても大丈夫」と少しでも思っているなら、数年後にこの瞬間を振り返ってこう思うはずです。
「あのときから、ちゃんと自分を追い込む練習を始めておけばよかった」と。
教訓15:避けているものを好きになれ
苦手で、つい避けてしまう分野ってありますよね。
でも多くの場合、それは「向いてない」んじゃなくて、単純に回数が足りなくて自信がないだけです。
基本を少しだけ押さえて、自分の対局の中で使えるようになると、怖さが薄れていきます。
そして不思議なことに、そこが好きになっていくことも多い。
私自身、20年くらい序盤が好きではありませんでした。
でもある時気づきました。序盤は暗記じゃない。
「自分のチェスに合う形を見つけて、それを中盤につなげる作業」なんだと。
だから好奇心を持って、先入観を捨てて触れてみてください。
チェスのどの部分にも飽きずに学べる選手ほど、強いものはありません。
教訓16:速さより深さ
ブリッツとバレットは中毒性があります。
でも、早い段階でやりすぎると変なクセがつきやすい。急いで指す、当てずっぽうになる、そしてブランダーが増える。
一手見落としがなかなか減らないのは、そもそも「長く考える練習」をしていないことが多いです。
だから順番はこれです。
まず深さを作る。あとから速さを足す。
集中力と思考の質を鍛えるなら、ラピッドかクラシカルがいちばん効きます。
今は便利なツールがたくさんありますが、振り返ると、私の場合はオンラインが少なかったおかげで、最初の5年間はOTBのラピッドとクラシカルを大量に指して基礎を固められました。
毎局のように駒をタダで落とさなくなってきたら、ブリッツは“感覚”を磨くのに役立ちます。
ただし、目的を持ってやること。惰性で回さないことです。
教訓17:暗記するな、理解しろ
今は定跡コースが充実しすぎていて、初心者ほど「まず暗記しよう」となりがちです。
でも実際は、二度と出ないような20手のラインに何時間も使ってしまうことが多い。
私はIMになるまで、定跡コースは一切触れませんでした。
とにかく指して、そこで出てきた形を自分の言葉でメモして、少しずつ積み上げていった。
そうやって身につくのは、丸暗記ではなく「手応え」と「自信」です。
始めるなら、シンプルで十分です。
白は初手を1つ。
黒は1.e4への返しを1つ。
それ以外は「こういう方向で組む」という方針を1つ。
そしてオープニングごとにLichessで研究を作って、毎週、自分の手とコメントを足していく。
盲目的にコピペしない。
理解して、好奇心を持って、自分の形にしていきましょう。
教訓18:エンジンの前に、自分で考えろ
Stockfishの最善手を見ると、「なるほど」と思って、自分が強くなった気がします。
でも、最初から答えを見てしまうと、肝心の思考力は鍛えられません。
負けた直後は、まずエンジンを回さないでください。
先に、自分の頭で振り返る。
「どこが分岐点だったか」「自分は何を見落としたか」を一言でいいので書いてから、答え合わせとしてエンジンを見る。
上達の核心は、エンジンが当たり前になる前から変わっていません。
私自身も、エンジンを使わずにIMになりました。
もし毎日エンジンを使っているなら、今日から1週間だけ、あえて使わずに振り返ってみてください。
きっと、いろいろ気づくはずです。
教訓19:直感を鍛えろ
初めて見る局面なのに、「これが良さそう」と手がパッと浮かぶことがあります。
それが直感です。超能力みたいに見えるけど、魔法ではありません。
正体は、積み上げたパターンの集合です。
自分が指した対局、並べた名局、研究したポーン構造。そういう経験が、言葉になる前に“感覚”として出てきます。
直感を育てる第一歩は、質の高い棋譜にたくさん触れること。
自分が指さないオープニングのものでもおすすめです。良い対局をどんどん並べて読む。
次の段階は、その直感を放置しないことです。
「今、私は何を根拠にそう感じたんだろう?」と気づいて、少し時間を取って検証する。
気づく。振り返る。繰り返す。
これを続けるほど、直感はどんどん鋭くなります。
教訓20:助けを求めろ
チェスという山は、最後までずっと一人で登りきれるものではありません。
局面の考え方や練習のやり方で詰まったら、あなたが行きたい場所にすでにいる人に聞いてください。
一人で何か月も悩む時間を、あっさり短縮できます。
たとえば、負けた相手に一言だけ感想をもらう。
強い人に「ここが課題なんですが、どう練習しますか?」と聞く。
練習試合をお願いする。
ポイントは、短く、具体的に、礼儀正しく。
断られても最悪、「ごめんなさい」で終わるだけです。
ことわざにもありますよね。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」。
教訓21:自分が信じる手を指せ
チェスで怖いものは、結局ふたつです。
負けることと、ミスをすること。
でも25年指してきて分かったのは、どちらも完全には避けられないということです。
だからこそ、伸びる人が持っているのは「未知に飛び込む勇気」です。
挑戦して失敗すれば学べる。
でも飛び込まなければ、学びは起きません。
そして一度止まる癖がつくと、だんだん本当に指したい手が指せなくなっていきます。
私も「二択の決断」で怖くなって安全な方に逃げたことが何度もあります。
そのあとに残る、あの嫌な後味はいまでも覚えています。
迷ったら、こう自分に聞いてみてください。
「もし怖くなかったら、私は何を指す?」
教訓22:安全運転をやめろ
上手くいっている時ほど、簡単に“攻める気持ち”が薄れていきます。
私もFIDEレート2460に到達してから、守りに入りました。そこまで連れてきてくれたダイナミックな指し方を追いやり、数年かけて2350まで落ちてしまいました。
安全運転は賢く見えます。
でも実際は賢くなかった。
成長を、快適さと交換しただけでした。
いちばん大きなリスクは、実は何もリスクを取らないことです。
チェスの旅路には、しんどい日がたくさんあります。
でも最後に後悔しないのは、読みきれない手を指して負けたこと。勝ちを狙って散ったこと。誰かに練習を頼んだこと。強い大会に遠征したこと。
そういう“前に進む選択”です。
準備できた気がしなくても大丈夫。自分を信じて、一歩踏み出してください。
教訓23:チェスを愛せ、崇拝するな
チェスに本気になるほど、結果を自分の価値と結びつけやすくなります。
勝てば「自分はいい感じ」、負ければ「自分はダメだ」。気づくと、そんなふうに心が揺れます。
でも、少しだけ引いて見てください。
チェスは、楽しめるだけでも十分ありがたいゲームです。
愛していい。でも、人生の全部にしなくていい。
疲れたら休んでいいし、別の趣味を持ってもいい。
そうやって一度距離を取ると、戻ってきたときにまた新鮮な喜びや、指したい気持ちがふっと戻ってくることが多いです。
教訓24:競うだけじゃなく、創れ
今はプレイヤーとして頑張っているかもしれません。
でも、チェスとの関わり方はそれだけじゃありません。
教えることもできるし、動画を作ってもいい。配信してもいいし、文章を書いてもいい。クラブを手伝ったり、イベントを運営したりだってできます。
得意なことも、好きなことも、人それぞれです。
そして、たったひとつ「自分が学んだこと」を共有するだけでも、誰かの助けになることがあります。
もし最近「指すのがしんどい」「結果がストレスになっている」と感じるなら、こういう別の出口がバランスを作ってくれて、チェスを好きでいられる時間を守ってくれます。
オンラインで何かを始めるのは、今がいちばん簡単な時代です。
興味があるのなら何でもいいのでひとつ選んで、まずは30日だけ試してみてください。
教訓25:あなたは、あなたの一手以上の存在だ
チェスが強い人ほど、尊敬されやすい。
それは事実だと思います。
でも本当に大事なのは、盤を離れたときにどんな人かです。
私はこれまで、チェスは素晴らしいのに、人としては残念な言動をするGMを何人も見てきました。
結局、チェスの強さと、人としての成熟は別物です。
あなたも私も、完璧じゃない。だからこそ、そこは切り離して考えていい。
相手に対しても、自分に対しても。
プレイヤーと人間は別。
あなたは、あなたの一手以上の存在です。
そして同時に、チェスは面白い。
この一つの人生の中で、いくつもの人生を生きさせてくれるようなゲームでもあります。
以上が、私の「25年からの25の学び」です。
読むだけでは、すぐに大きく変わらないかもしれません。
でも今日、どれか一つでも試したら、前に進み始められます。
読んでいただいてありがとうございました。
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