なぜオープニングの勉強では上達しないのか


もし、オープニングの変化をたくさん覚えることが強くなることに直結するなら、多くのクラブプレイヤーはとっくにマスターになっているはずです。

こんな経験はありませんか。チェサブルのコースを毎日復習して、自信を持っていたのに、相手が3手目で見慣れない手を指してきた瞬間、頭が真っ白になる。時間だけがどんどん過ぎていき、あなたはチェスを指すのではなく、覚えたことを思い出そうとしているだけになっている。

これが、多くの人のオープニングの勉強の仕方が抱える問題です。それは、スキルではなく依存を築いてしまうのです。

日本語には「守破離(しゅはり)」という言葉があります。これは、熟達に至るまでの3つの学びの段階を表しています。

まず、型に従う(守)。 次に、型を破る(破)。 そして最後に、型を超える(離)。

ほとんどのチェスプレイヤーは、「守」の段階から先に進めません。手を自分のものにすることなく、ただコピーしているだけなのです。

そして、オープニングに関するコンテンツの多くは、「何を指すべきか」を教えてくれますが、「どう考えるべきか」は教えてくれません。でも実際にあなたを強くしてくれるのは、思考の方なのです。

この記事では、次のことについて話します。

  • なぜほとんどのオープニング学習が、あなたの足を引っ張っているのか
  • オープニングは本来何のためにあるのか
  • 各レート帯に合ったオープニングとの向き合い方

まずは、多くの人が信じ込まされている、オープニングにまつわる「嘘」から始めましょう。


1. オープニングにまつわる嘘

多くのプレイヤーは、オープニングの目的を次の3つだと考えています。

  1. 最善のオープニングを見つけること
  2. 相手より多くを暗記すること
  3. 優位を得ること

一見理にかなっているように聞こえますが、これらはすべて、あなたの足を引っ張る可能性があります。

初級から中級レベルでは、オープニングトラップこそが解決策だと考える人もいます。速く勝てて、レーティングも上がり、まるでチートコードを見つけたような気分になります。

でも、強い相手はそれに引っかかりません。普通の中盤に入ってしまい、そこで何をすればいいのか分からなくなってしまいます。

より高いレベルになると、同じパターンが違う形で現れます。トラップや序盤での勝ちを狙う代わりに、エンジンの手をなぞって、自分のレパートリーの方が優れていることを証明しようとするのです。

でも私はチェス人生を通して学びました。より良い局面にたどり着けるようになったから強くなるのではなく、より多くの局面でより良い手を指せるようになったから強くなるのだ、と。

どんな対局も、最終的には自分の知らない局面にたどり着きます。そしてそのとき唯一意味を持つのは、覚えていることではなく、理解していることです。

だから、覚えていた手順を外れた瞬間に道に迷ってしまうなら、問題はあなたのレパートリーではなく、基礎の方にあるのです。

グランドマスターがオープニングでほんのわずかな優位を積み重ねることを正当化できるのは、彼らの基礎が超一流だからです。彼らに必要なのは、それを勝ちに変換するための、ほんの小さな優位だけです。

でも、ほとんどのプレイヤーはそういう状況にはありません。だから、上達という観点で見れば、対局の中で一番重要度の低いフェーズに、過剰に投資してしまっているのです。

そしてこのすべての根底にあるのは、恐れです。10手や15手で叩き潰される恐れ、間抜けに見えて恥をかく恐れ。だから暗記は、支配欲を満たしてくれますが、それは本物の自信ではありません。

誰かが手順を外れた瞬間に自信が消えてしまうなら、それは本物の強さではありません。

そして「完璧なオープニング」の話ですが、もしそんなものが本当にあるなら、私たち全員がそれを指しているはずですし、ありとあらゆるオープニングについてのコースが存在するはずもありません。

あなたの可能性を魔法のように引き出してくれる完璧な選択肢など存在しません。あなたは、より良く考える方法を学ぶことで、強くなっていくのです。


2. オープニングは本来何のためにあるのか

少し視点を引いて、全体像を見てみましょう。

オープニングは、直接あなたを強くしてくれるわけではありません。でも、そこから成長できる局面を与えてくれます。完璧な花を探して買うのではなく、庭に種を植えるようなものです。

オープニングの目的はシンプルです。

  • 自分が納得して指せる中盤にたどり着くこと
  • すべての対局から何かを学ぶこと

それだけです。

オープニングを「ゴール」ではなく「入り口」として扱うようになると、それは対局のたびにトレーニングの場になります。中央の支配、駒の展開、駒同士の連携、キングの安全性。これらのスキルと感覚は、あらゆる局面に応用できます。

相手に勝たなければならない「決死の戦い」としてではなく、中盤への準備として自分のオープニングを見るようになります。

そして、なぜ一つ一つの手を指しているのか、より深く考えるようになります。でも私自身、これに気づくまでに何年もかかりました。


3. マスターでさえこの罠にはまる

ここで、少し恥ずかしい話をします。IMになった年、私はオーストラリア代表としてオリンピアードのチームに選ばれました。オリンピアードに向けて、チームの他のマスターたちは、それぞれ自分の得意なオープニングについてプレゼンをしました。

プレゼンをしなかったのは私だけでした。経験はあっても、それを明確に説明できるだけの理解がなかったのです。

数年後、FIDEレート2450を超えた頃、私は「オープニングこそが自分の弱点だ」と自分に思い込ませていました。

もしかしたら、本当の弱点――時間管理と計算力――から目を逸らしていただけなのかもしれません。

だから私は、多くのプレイヤーがやっていることをやりました。

  • オープニングコースを一気見する
  • 変化を執拗に復習する
  • 暗記をまるで真剣な勉強のように扱う

その後の2年間で、私はレーティングをおよそ100ポイント失いました。

コースのせいにしているわけではありません。コース自体は問題ありませんでした。問題は、私が自分の時間とエネルギーを、スキルではなく記憶を積み上げることに使っていたことです。そして、記憶だけでは、より良いプレイヤーにはなれません。

あるGM相手の対局で、私は準備していた手順の最後にたどり着きましたが、その局面のことをまったく理解していませんでした。その瞬間、私は気づきました。誰かの手順をなぞるだけでは、成長にはつながらないのだと。

自分自身の言葉で、それぞれの局面を理解する必要があります。その気づきが、私のトレーニングの仕方も、教え方も変えました。

アマチュアプレイヤーにとって、オープニングに割く時間はチェスにかける時間全体の10~20%を超えるべきではありません。

残りは、対局し、分析し、問題を解き、学ぶことに使うべきです。そして、オープニングに使うその少しの時間でさえ、暗記作業にハマらないようにしましょう。

やるべきなのは、

  • 自分自身の対局を見返すこと
  • 自分の言葉でファイルにメモを追加すること
  • なぜ何かがうまくいった/いかなかったのかを突き止めること
  • 他の人の対局から学ぶこと

暗記が無意味だと言っているわけではありません。レベルが上がれば、特定の変化を知っておく必要は確かにあります。でもそこでさえ、先入観や偏見を持たず、一手一手に疑問を投げかけるべきです。


ストリートファイター史上最高の選手とも言われる梅原大吾さんは、こう表現しています。

「手っ取り早い方法や人の真似、安易な近道を選んだ人は、どれだけ頑張っても最大で 10 の強さしか手に入れることができない。しかし、自分だけの道を切り拓いて進んでいった者は、 11、 12、 13 の強さを手にできるはずだ。」

(『勝ち続ける意志力』より)

これこそが、学びの段階における「守」から「破」への移行――型をコピーする段階から、型を破る段階への移行です。

ここからは、レート帯ごとに、私がオープニングをどう捉えているかをお話しします。


4. レート帯ごとのオープニングとの向き合い方

どのレベルであっても、目標は「より良い思考」を築くことです。

まずは、オンラインレート1000未満の方から。

この段階では、気づく力を築いています。

ここでの目標はシンプルです。

  • 駒をタダで取られないようにする
  • タクティクスをたくさん解く
  • 駒を展開する
  • キャスリングする

このレベルの対局のほとんどは、一手のミスで決まります。オープニングでの目標は、展開と生き残ることです。


次は、オンラインレート1000~1500です。

この段階では、健全なチェスの習慣を築いています。

このレベルでも一手のミスが多くの対局を決めるので、引き続きタクティクスをたくさん解いてください。

オープニングでは:

  • 中央を支配する
  • 展開で遅れを取らない
  • 理由もなく同じ駒を2度動かさない
  • キャスリングを済ませる

自分が興味を持てるものを指し、チェスのあらゆる分野に好奇心を持ってください。

相手はあなたが理論を知らないことを罰してくることはありません。駒をタダで渡してしまうことや、タクティクスを許してしまうことを罰してくるのです。


次は、オンラインレート1500~2000です

この段階では、理解を築いています。

ここからは、より良い問いを立て始めます。

  • こういう局面では、自分の駒はどこにいるべきか?
  • 相手は何をしたがっているのか?
  • 自分の対局の中で、どんなパターンが繰り返し起きているか?

すぐに負けたとき、オープニングのせいにしないでください。どの原則を無視したのか、あるいはどこでミスをしたのかを問いかけ、それに取り組んでください。

自分の言葉で簡易なオープニングファイルを作り始めましょう。オープニングでエンジンを使うのは避けてください。エンジンの評価は、可能性が多すぎるこのフェーズを、レート3700の「怪物」2体が指した結果に基づいているからです。

まずは人間同士の対局を研究してください。リチェスのデータベースなどで、ラピッド以上、そして自分より少し高いレーティングレート帯にフィルターをかけて見てみましょう。


次は、オンラインレーティング2000以上です。

この段階では、深さを築いています。

もっと深く掘り下げたいなら、1手目から自分の頭で考え、それぞれの手、それぞれの局面を理解する必要があります。

  • なぜこのオープニングを指しているのか?
  • なぜこの手はよく指されているのか?
  • ここで別のことを試したらどうなるか?

自分自身の頭で考え始めたとき、深さが身についていきます。

だから、毎週の終わりに、その週に各オープニングで指した対局を振り返り、自分の手や、学んだことについてのコメントをファイルに書き加えてください。そうすれば、一局一局から何かを学んで前進している実感が持てますし、次に何を指したいかも見えてきます。


次は、FIDEレート2000以上、あるいはそれを目指している方についてです。

この段階では、構造を築いています。

対面(OTB)のチェスでは、相手が事前に準備してきますし、不正確な手は罰せられます。

数週間ではなく、少なくとも1年は続ける覚悟のある、はっきりとしたレパートリーを持つべきです。

オーストラリアのグランドマスター、モルトン選手は、理解を深めることについてこう語っています。

「自分が指すものを好きになって、よく理解していることが大事だと思う。だから私は、モデルゲーム(チェスの原則や戦略を学び深めるための分かりやすい模範的な棋譜)やステムゲーム(オープニング理論や特定の戦術の出発点となる重要・歴史的な棋譜)をたくさん見るようにしている。それぞれの特定の変化について、GMレベルに到達するには、少なくとも5局は必要で、それを非常に、非常に丁寧に分析する必要がある」

私は以前、大会の直前に変化を詰め込んで、終わったら忘れてしまうということをしていました。でもそれは、本当の知識や理解、自分の一部になるようなものではありません。

モデルゲームを研究し、毎週自分のファイルに自分自身のメモを加えるという、より深い作業をすることで、それらを身につけることができます。

そしてそこから、学びの第3段階「離」――型を超えて、自分自身の指し方を見つける段階へと進むことができます。それこそが、私たちがチェスを指す理由のひとつではないでしょうか。


5. 木

私が気に入っているイメージがあります。

自分のチェス人生を、一軒の家だと想像してみてください。指すオープニングそれぞれが、その家の中のひとつの部屋です。

その部屋の中で、一本の木が育っています。

そのオープニングを指すたびに、幹が太くなります。

ある変化を掘り下げるたびに、枝が伸びます。

何かを深く理解するたびに、葉が茂ります。

学んだことを実際に活かすたびに、花が咲きます。

あなたが探しているのは、完璧な部屋ではありません。あなたと一緒に育っていく、生きた何かを育てているのです。

熟達とは、結果への近道ではなく、時間をかけた洗練です。型をコピーすることから、型を超えることへ。

そしてそれこそが、あなたのオープニングも本来そうあるべき姿です。考え、理解するためのトレーニングの場であり、これからもずっとあなたの学びと上達を助けてくれるものなのです。


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