大会で内容面の目標を持とう


じゅんたチェス通信

大会で内容面の目標を持とう

こんにちは!

今回のテーマは「大会では内容面の目標を持とう」です。

大会で結果だけを目標にしがちな方には、特に参考になる内容かもしれません。

私もこのメールが送られる2日後、4月17日(木)から21日(月)までFIDE(国際公式)戦の9回戦の大会に参加するので、自戒のためにも今回はこのテーマにしました。


大会の時、あなたは目標を持って臨みますか?

多くの人は、結果の面で何らかの目標を持つと思います。

  • 優勝したい
  • 勝率イーブン以上で終わりたい
  • レーティングを20以上上げたい...

目標を持つとモチベになりますし、人によってはパフォーマンスを発揮できるような起爆剤となるかもしれません。

結果面での目標を持つことは決して悪いことではありません。

しかし今回は、

  • 結果面での目標を持つと抱えるリスク
  • なぜ内容面での目標も持つのが大事か

について話します。


結果面の目標しかない時のリスク

1対1の勝負の世界では、全力を尽くして会心のチェスを指してもうまくいかないこともあります。

  • 当たった相手がさらに上手く指した
  • 他のプレイヤーがさらに良いパフォーマンスを出した
  • ミスを1つしてしまったせいでレートが下がってしまう

など、時には自分で完全にコントロールできない要素も絡んできます。

実力が伸び、レートが追いついていない状態では期待値以上の結果を出しやすくなります。レートが上がる度に成長が感じられて満足しやすくなります。

しかし、いずれレートは実力に追いつきます。そうすると実力を伸ばさない限り、なかなかレートは上がらなくなり、レートが落ちることもあるので道は険しくなります。相手ももちろん皆全力ですから、例えば同レート辺りの相手と当たれば勝率は五分五分です。

アンダーレートな(レートより実力が高い)相手と当たるのも競技としての一環なので、自分のレートに見合う力、時にはそれ以上を出せても試合や大会を通してレートが落ちることもあります。

こういった要因が働いているかもしれないのに、掲げていた結果面での目標に届かなかったら大会を失敗とみなしてしまう人も多いようです。しかし、特にOTB(対面)の大会で結果だけを見てそう片付けるのはもったいないと思います。

まず、全力で何時間も集中するというチェスにおいて一番の真剣勝負である舞台で戦うこと自体、上達につながります。そして大会後、振り返りを通して学べるものは多いはずです。

レートが下がった悪い結果だったから忘れよう、次に行こうではなく、負けた時こそ、レートが下がった時こそ強くなるためのヒントが一番多く潜んでいます。

しかし、結果面での目標しか持っていないと、うまくいかない時はどうしても落ち込み、モチベも低くなってしまいます。

だからこそ、内容面でも目標を持つべきです。


内容面での目標を持つメリット

大会が思うようにいかなくても、内容面での目標を成功させたり収穫があればポジティブに捉えやすいです。

例えば

  • 指す前に一息つき、ブランダーチェックをする(速く指しすぎてミスをする防止)
  • 形勢が悪くなっても、逆転をイメージして粘る(すぐに諦めモードに入ってしまう癖を改善)
  • 準備してきたオープニング、本番で指すのはまだ怖いけどとにかく指してみる(ぬるま湯より経験値)
  • 普段通りの就寝・起床時間を心がける(大会中で緊張していてもルーティンを持つ)
  • 毎日、他のプレイヤーと食事を摂る(大会のコミュニティ面も楽しむ)

など、盤上・盤外のテーマは無限にあります。

前回の大会からのチェスのテーマだったり、去年の大会を振り返ってみて今度はこうしてみたらもう少し楽しめそうだったり、あなたに合ったものを見つけられるはずです。しかし内容面の目標が多すぎてもそれはそれで気が散ってしまうかもしれないので、大事ないくつかに絞りましょう。

内容面での目標も持てると試合中もそこに意識が向かうので、結果への固執も少し薄れるはずです。

「勝たないと」

「この試合を負けたら絶対ダメだ」

ということばかり考えていても、不安になって逆効果ということはよくあります。

内容面の目標は試合の結果と比べると自分でコントロールしやすい領域なので、その目標に対しての進捗状況や手応えも掴みやすいです。モチベを持てる対象が増え、苦しい時に手助けともなるかもしれません。

目標は「どうすれば成功となるのか」分かりやすいほどいいと思います。

それは具体的なステップを含むかもしれないし、逆にとてもシンプルな1つのものかもしれません。


私の大会目標

私の場合は時間管理が大きな課題です。序盤や中盤で時間を使いすぎて、試合によっては中盤早々、すでに持ち時間がかなり少なくなっています。すると例えば試合の25手目、30手目ですでに加算の30秒で指すしかなくなる時もあるのですが、じっくり考えないと良い手が指せないような局面ももちろん現れます。時間が十分にない状態だと、致命的なミスが出るのは時間の問題となってしまいます。

局面が悪くなくても、強い相手と立て続けに対戦する中で時間管理がこんなものではあまりにリスクが大きいということになります。なので、去年に引き続き、明後日からの大会も時間管理が一番意識しているテーマです。

「中盤ですでに、数分しか持ち時間がない」という状態を避けたい。チェスの平均的な試合は40手ほど(白・黒、ともに40手)なので、40手を指した時点でまだ考える時間がある状態が理想です。それを踏まえると、

「40手目で10分以上残っている状態を目指したい」

となります。

大会での持ち時間は90分(と1手指す度に30秒増える、加算)。40手目を指しても10分以上残っているということは、試合を通して1手、平均2分以内(加算も考慮すると2分半以内)に指さなければ到達できません。すると、例えば10手目、20手目、30手目でどれくらいの持ち時間を残しておきたいか、それに必要なペースも把握できます。

やるべきことが分かりやすく、試合中でも意識しやすいように、目標とその遂行に必要なものは明確に設定しましょう。


新しいことに挑戦しよう

新しいことに常に挑戦することも大事です。

25年のチェスの競技人生を振り返ると、「この新しいものに挑戦するのが怖い」と思っていた時間はなんて無駄だったんだろうと感じます。

あなたが若いプレイヤーで最近のチェスはうまくいっているとしても、気になること、試したいことは積極的にやっていきましょう。

実戦から学べますし、それを試したからこそ、想像できないような他の扉も開きます。

本番でも新しいことに挑戦するのを厭わない姿勢。それは、短期の結果よりも長期の上達を重視できている証かもしれません。


あなたはチェスの大会に参加する時、「内容面での目標」を持っていますか?


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