弱点を改善するのに必要なこと


じゅんたチェス通信

弱点を改善するのに必要なこと

チェスの大会の魅力の一つは、結果がどうであれ「自分は変われる、まだ強くなれる」と感じられることかもしれません。


今回は4月17日(木)から21日(月)まで参加していたFIDE(国際公式)戦の9回戦の大会について話します。

結果としてはレート下のプレイヤーとしか当たらずも2敗3引き分けを喫してしまい、ここ何年かの低迷が続きました。

ここ何年かの私のチェスについてはまた他のメールで書こうと思いますが、今回は大会前のメールで掲げた目標に集中します。

「40手目で10分以上残っている状態を目指したい」

果たしてこれは達成できたのでしょうか?


1時間半の持ち時間で試合が始まり、チェスの平均的な試合は40手辺りなので終盤になったりしていても、最後まで考えられる時間がほしいという目標でした。

この目標は、グラフで示すことができます。

目標を達成するには、試合開始から1手に2分消費するペースが必要となります(2分半考え、チェス時計を押して加算の30秒が戻ってくる)。10手目を指した後に1時間10分、20手目に50分、30手目に30分、そして40手目に10分残すという計算となります。

目標を達成するためには基本的に試合を通してこの理想的なペースを維持し、黒のラインの右/上側にいたいということになります。

私は時間管理が長年の課題なのですが、改善を狙う上でまずはどれほどの時間を使っているのか知る必要があります。そのため、だいぶ前から試合中、棋譜用紙に残りの持ち時間を記録しています。あなたもOTBでの時間管理が課題なら、まずはこれを習慣にするといいでしょう。

1回戦の時間管理はこうでした。

12手目までは問題ないものの、そこからラインを下回って27手目にすでに1分まで時間が減ってしまっていました。48手で引き分けとなりましたが(引き分けのラインは青)、最後の方も相手が勝つチャンスがあったのでラッキーでした。

次に2回戦もグラフに加えるとこうなります。

2回戦は42手で勝てましたが(勝ちのラインは緑)、時間管理は褒められたものではありませんでした。またもや12手目で黒線を下回り、1回戦よりは中盤でもう少し時間が残っていましたが、今度は33手目ですでに残り1分しかありませんでした。

次に3~4回戦を加えてみましょう。

2日目は痛い連敗(負けのラインは赤)。3回戦(右の方の赤線)は時間管理の面では1~2回戦と大差なく、不十分でした。途中までは悪くないものの、中盤の複雑な局面でミスをしてしまいました。

目も当てられなかったのが4回戦(左の方の赤線)。序盤から間違って劣勢となり、22手目に残り1分という地獄。ここ何年かの中でもメンタル的にかなり堪えるラウンドでした。

大会前に内容面の目標をこのメルマガで公言していながら、時間管理も内容もお粗末。「今まで25年以上、主にプレイヤーとしてチェスに集中していたけど今年は他のことにも力を注がねば。今まで通りチェスをやっていてもいいのだろうか?」という、大会前からのチェスに対しての迷いも払拭できず、弱気になってしまっていた部分もあるかもしれません(もちろん、敗因は相手に上手く指されたことです)。

ここからはパフォーマンスは上を向き、再び負けることはありませんでした。しかし、5回戦から8回戦はまだ時間管理がうまくいきませんでした。

1回戦から8回戦をグラフに全て表すとこうです。

うまくいっていた試合もありましたが(5回戦がグラフのクイーンサイドで1番右に位置している青線)、30手目の手前に結局時間を使いすぎて、ラインを下回っていました。

しかも、今大会の相手は大体FIDEレート2200以下という、レート上は下の勝つべき相手。時間管理が良くないのは色々と弊害があるのですが、レートのより高い、さらに強いプレイヤーと対戦する時に時間管理がこうだと、それはより多くのミスや負けにつながってしまうのも間違いありません。

最終日、9回戦の相手は15回以上も大会で対戦しているFM。彼は速く指し、時間を使って相手にプレッシャーをかけることが上手いプレイヤー。2年前にこの大会で当たった時も私が時間を使いすぎて中盤から大きなミスを犯し、痛い負けを喰らっていました。

ここまで目標を達成できていなく、この相手に対してそれまでの8ラウンドのような時間の使い方だと間違いなく負けると思いました。

なので、最終戦は「負けてもいいからとにかく速く指そう」という気持ちで臨みました。

ここで目標を達成できなかったら、一生時間管理は直せないだろう

最終戦の時間管理はこうでした。

40手目で20分も残し、なんとか達成できました(50手目以降も残り6分)。とにかく速く決断するようにする中でチェスに深く集中することができ、これからにもつながるようなチェスを指せました。

ここ何年か、パフォーマンスは優れないけどこんな時間管理ができてこんな試合が指せるなら、私のチェスもまだまだこれからかもしれない

チェスで長年、同じ弱点や課題を持っている場合、それは技術的なものより心理的な部分が大きいと感じます。


チェスの大会の魅力の一つは、結果がどうであれ「自分は変われる、まだ強くなれる」と感じられることかもしれません。

そしてそのきっかけとなるのは今まで持っていなかった新しいスキルや知識でもなく、すでに自分の中に眠っている、新しい一歩を踏み出す勇気なのかもしれません。


この9試合を指す中で読んでいたこと、考えていたことは大会翌日に自己最長の9時間配信でじっくり解説したので興味ある方はそちらをぜひご覧になってください(チャプター分けしてあるので気になる試合からどうぞ)。


メルマガで扱ってほしいテーマ(チェスの質問や悩み)があったら気軽に返信で書いてください。

それでは、次回のメルマガで!

じゅんた


113 Cherry St #92768, Seattle, WA 98104-2205
UnsubscribeUpdate your profile
↑購読停止   ↑メルマガ設定

じゅんたチェス通信

上達を目指しているプレイヤーや愛好家に向けて、トレーニング法、実戦のノウハウや25年以上の経験から学んだことなど、チェスについてのメールをお届けします

Read more from じゅんたチェス通信

じゅんたチェス通信 大会で内容面の目標を持とう こんにちは! 今回のテーマは「大会では内容面の目標を持とう」です。 大会で結果だけを目標にしがちな方には、特に参考になる内容かもしれません。 私もこのメールが送られる2日後、4月17日(木)から21日(月)までFIDE(国際公式)戦の9回戦の大会に参加するので、自戒のためにも今回はこのテーマにしました。 大会の時、あなたは目標を持って臨みますか? 多くの人は、結果の面で何らかの目標を持つと思います。 優勝したい 勝率イーブン以上で終わりたい レーティングを20以上上げたい... 目標を持つとモチベになりますし、人によってはパフォーマンスを発揮できるような起爆剤となるかもしれません。 結果面での目標を持つことは決して悪いことではありません。 しかし今回は、 結果面での目標を持つと抱えるリスク なぜ内容面での目標も持つのが大事か について話します。 結果面の目標しかない時のリスク 1対1の勝負の世界では、全力を尽くして会心のチェスを指してもうまくいかないこともあります。 当たった相手がさらに上手く指した...

じゅんたチェス通信 持ち時間の長い試合を指そう こんにちは! 今回のテーマは「持ち時間の長い試合を指そう」です。 「あと10秒あれば勝てたのに...」 「勝ってるのに、時間がないせいでミスをするのが悔しい...」 こんな経験はありませんか? 普段、早指しばかりやっている方は特に要チェックです。 メルマガ1通目、「本気度の試合を指そう」ともつながりがあります。 チェスの上達を目指しているのなら、持ち時間の長い試合を指すのは大事です。 そういう試合ほど じっくり考えられる分、試合の質が高い 局面によってどれだけ時間を使うかというスキルも磨ける 中盤や終盤でも考える時間があるので全フェーズの経験値を着実に積める 序盤から1手1手集中して考えて指すので、1人で研究するより遥かに理解を深めやすい など、利点が多いです。 チェス上達の本質 あなたのチェスのレベルがどんなものでも、優先したいのは手の「質」を上げることです。どんな局面でも、以前より強い手を指せるようになったらチェスが成長していると言えるでしょう。 チェスをやっていく中で、この本質を意外と忘れがちです。...

本気度の高い試合を指そう こんにちは!1通目のメルマガです。登録していただいてありがとうございます。競技歴25年以上のインターナショナルマスター、池田惇多(じゅんた)が読者の力となれるようなチェスの上達法や実践的なアドバイスをメールで定期的にお届けします。 今回伝えたいテーマは「本気度の高い試合を指そう」です。 いくつかの配信で「最近、この言葉を使うのが多いな」と感じたのでこちらでまとめようと思いました。 チェスの上達を目指す中でもちろん、実戦は欠かせません。 いくら 動画を観ても 本を読んでも 問題を解いても、 試合をしなければそのインプットや練習を実力につなげにくいです。 その中でも、本気度の高い試合が特に大事です。 真剣勝負ほど、 実力がはっきり出る 相手も本気なので試合の質も高い 不安や緊張との向き合い方も鍛えられる 学んでいた定跡やプランを試す甲斐がある など、利点が多いです。 この文章を読んでいるあなたは、 オンラインチェスの経験しかない方、もしくは OTB(Over the board、対面)チェスの経験もある方かと思います。...